植物シュート形態を伴うコンパクト太陽電池モジュールを用いた水電解システム

はじめに

太陽光発電の電力を水電解槽に供給して得られた水素を,時間シフトして燃料電池に供給するシステムを提案します。このシステムの目的は,自然エネルギーのみで戸建て住宅や集合住宅などの電力を賄うことです。ただし,従来の太陽電池モジュールでは設置面積が大きくなり,住宅や集合住宅に設置することが困難です。そこで本研究では,植物のシュート形態を伴う太陽電池モジュールの導入を数値解析によって検討して,このような形態の太陽電池モジュールを導入することで従来の平板タイプに比べて,発電面積は33%から52%に低減できることがわかりました。さらに運用計画の解析結果から,提案システムの戸建て住宅への導入がそう困難ではないことがわかりました。

研究の背景

燃料電池システムの最終ゴールは,完全に自然エネルギーによって製造された水素を用いて運転することです。自然エネルギーによる水素製造技術としては,例えば,風力や太陽光の電力を使って水を電気分解する方法があります。これまでにも,太陽光発電の電力を用いた水電解システムについては,いくつかの調査例があります。本研究で想定するシステムは,太陽光発電の電力を水電解槽に供給して得られた水素を用いて,住宅のすべての電力を小型燃料電池で賄うものです。水電解で製造された水素と酸素は,ボンベに貯蔵して時間をシフトして燃料電池に供給することができます。ただしこのシステムの課題は,高価な設備コストであす。特に,燃料電池,水電解槽,太陽電池のコストは,システムの普及に大きな影響を与えます。現在の燃料電池の設備コストは,多くの開発実績から容易に推測することができますが,高効率の水電解槽の開発は現在も続いています。一方,太陽電池の設備コスト(即ち電池面積)は,システムの設置場所(緯度と経度)と設置条件(方位角および傾斜角)に影響されます。したがって,本研究の最も重要な論点は,現在の太陽電池の変換効率に基づいて計算した設置面積が,実際の住宅に導入可能であるか否かを判断することにあります。そこで本研究では,住宅の1日の電力需要量から,PEFCで消費する水素量を計算し,この水素を得るのに必要な,太陽電池の設置面積を検討しました。水電解槽,燃料電池,圧縮機の効率を考慮すると,太陽電池の面積は,既存の発電システムに対して大きくなることが予想されます。また,太陽電池の設置面積が大きいと,都市部での提案システムの導入が困難になります。そこで太陽電池の設置面積を低減するために,植物のシュート形態(1本の茎に葉がついているまとまり:茎,葉枝,葉で構成)を模擬した太陽電池モジュールの導入を試みます。植物シュートの受光特性の調査は,植物形態学などの分野で研究されていますが,植物シュート形態の受光形態について数値解析を用いて調査された例はごく稀です。そこで我々は,植物シュートの受光形態の最適化に関する解析アルゴリズムを開発して,これまでにイチョウなどの植物シュートの受光量と形態の関係を明らかにしました。この研究結果からは,イチョウなどの分裂葉の植物シュート形態を伴う太陽電池モジュールは,従来の平板モジュールに対して,設置面積を大きく低減することがわかっています。
本研究の目的は,イチョウの植物シュート形態を伴う太陽電池モジュールを戸建て住宅に設置することで,太陽エネルギーだけで電力需要を満たす自立システムの可能性を明らかにすることです。本研究で提案するシステムの実現性が肯定的であったなら,非常にクリーンな電気エネルギー自立住宅を提案することができます。




  

システム

図12(a)と(e)は,1月と7月でのPEFCの負荷率です。システムは札幌市に設置することを想定しています。太陽光発電の電力が需要量を超える昼間の時間帯では,PEFCの運転は停止します。また,PEFCの負荷率は,夕方の短い時間帯を除くと小さい値をとります。図12 (b)と(f)は,水平タイプと傾斜タイプの太陽電池の各月での発電量の結果です。傾斜タイプとは,平板の太陽電池モジュールを南に向けて,傾斜角を 30度に設定した場合です。1月では,水平タイプに対して傾斜タイプのほうが,わずかに発電量は大きくなります。これらの太陽電池の発電量から電力需要量を除いた残りの電力は,水電解槽での水素と酸素の製造に使います。この結果,図12(c)と(g)に示す電力の貯蔵が達成されます。24時でのこれらのガスの貯蔵量は,次の日の燃料電池の運転に要する量と等しくなるように,太陽電池の面積は決めています。一方,図12(d)と(h)は,水素と酸素をボンベに貯蔵する際の,圧縮機で消費する電力です。
表は,各太陽電池タイプでのモジュール面積の結果であるPlant shoot configuration typeは,イチョウのシュート形態を有する太陽電池モジュールを示します。表の結果から,7月に比べて1月の日射条件での太陽電池モジュールに要する面積が大きくなることがわかります。この理由は7月のほうが全天日射量が大きいためです。7月の太陽電池モジュールの面積は,傾斜タイプに対して水平タイプのほうが小さくなります。この理由は,7月では太陽高度が高いために,水平に設置した太陽電池モジュールのほうが受光に有利となるからです。Plant shoot configuration typeの太陽電池モジュールの面積は,各月で最も小さい結果となります。この結果は,イチョウのシュート形態を伴う太陽電池モジュールの分散配置を最適化した効果です。




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