植物シュート形態を伴う分散太陽電池モジュールの受光形態

はじめに

本研究の目的は,エネルギー密度が高いソーラー発電システムを開発することです。ソーラー発電システムのエネルギー密度を改善するには,システムのコンパクト化(受光密度の改善)と指向性(太陽位置の依存特性)の低下を実現する必要があります。そこで本研究では,太陽電池モジュールを分散配置することで,上で述べた課題を改善することを検討しています。これまでに,太陽電池モジュールの分散配置を,植物のシュート形態を模擬する場合について調査しました。ハナミズキ,イチョウ,カクレミノ,モミジのシュート形態と受光量の関係を数値解析によって明らかにし,各シュート形態の最適解と受光密度の結果を得ています。さらに,葉の大きさ,設置場所,葉枝の長さなどを変数としたときの,各シュートの受光量特性なども検討しています。この結果,ハナミズキを除く各植物のシュート形態を伴う太陽電池モジュールの分散配置では,正方形モジュールの分散配置に比べて受光密度は改善することを明らかとしています。

これまでの調査

葉の形状,配向,葉枝の長さなどの植物シュート形状は,日光をより多く受けると共に,葉同士の重なりによる遮りを少なくするように進化していると考えられます。そこで図1に示すように,ハナミズキ,イチョウ,カクレミノ,山モミジのシュートを調査しました。図2は,これらの葉の解析モデルです。




  

システムの設置場所

解析では,札幌及び那覇にシステムを設置する場合を想定しました。図3は,札幌と那覇の位置を示す地図です。両都市の緯度の差はおよそ17度であるので,札幌と那覇での各時刻での太陽位置(方位角と仰角)は異なります(図4,図5)。

受光密度の結果

図6および図7は,各種類の植物シュートを札幌および那覇に設置した場合の,受光密度の計算結果です。ハナミズキ(図6(a)および図7(a))の最大受光密度は,1月および7月でそれぞれ0.73 [light quanta/cm2]および0.26 [light quanta/cm2]です。この結果から,ハナミズキのシュート形状を伴う太陽電池モジュールの分散配置は,長方形モジュールを分散配置する場合と比べて受光密度に優位性がありませんでした。一方,他の種類のシュートでは,長方形の太陽電池モジュールに比べて受光密度は増加します。イチョウとモミジは,1月と7月での受光密度が特に大きくなります。今回解析した葉は,ハナミズキを除くすべてが分裂葉です。分裂葉は,不分裂葉に比べて受光密度が大きいものと考えられます。

受光密度の結果

不分裂葉(ハナミズキ)と分裂葉(イチョウ,カクレミノ,モミジ)のシュート形態を取り上げて以下の結果を得ました。
(1) 植物シュート形態の最適化解析では,最適解の近似解が多数存在する。このことから,実際の植物シュートの形態には多様性があるものと考えられる。
(2) 緯度が異なる札幌および那覇での,各種の植物シュートの最適形態を示した。太陽位置の変化と日射量から,札幌7月,那覇7月,那覇1月,札幌1月の順番に,仮想ふく射平面から放射する各時刻での光子の分散幅が広い。この分散幅が広いほど,広い光源領域(仰角と方位角)に対応するように葉(受光面)は配置される。
(3) イチョウおよびモミジの葉形状を伴う太陽電池モジュールを分散配置すると,正方形のモジュールを分散配置する場合に比べて受光密度は大幅に増加する。正方形の葉に比べてカクレミノ,イチョウ,モミジの受光密度は,最大で1月ではそれぞれ2.0倍,7.4倍,6.4倍である。7月では,1.9倍,8.7倍,7.3倍である。太陽電池モジュールの分散配置は,受光密度の増加の点で有利であると考えられる。

以下に,各種類の植物シュートの最適形態を解析して得た葉の配置結果の例を示します。

ページトップへ