排熱改質を伴うPEM−FC・木質バイオマス・スターリングサイクル複合システムのエクセルギー制御

はじめに

木質バイオマスの利用方法として,スターリングエンジンを使った発電システムが検討されています。本研究では,エネルギーのカスケード利用を考慮して,木質バイオマス・スターリングエンジン(WB-SEG)と固体高分子膜形燃料電池(PEM-FC)の複合サイクルを提案します。このシステムでは,WB-SEGの高温排熱を水蒸気改質に利用して燃料電池を運転します。エネルギーシステムの排ガスの有効利用は,エネルギー効率とエクセルギー効率に大きく影響します。そこで本研究では,システムの排熱を使って改質燃料と木質バイオマス燃料を予熱するときの,エネルギー効率とエクセルギー効率の改善について数値解析で調査しています。解析の結果から,WB-SEG,PEM-FC,WB-SEG/PEM-FC複合サイクルのエクセルギー効率の改善について考察しました。この結果,改質燃料を重点的に予熱することで,エネルギーおよびエクセルギーの発電効率は,予熱を伴わない場合と比べて最大で8%および6%の改善が予想されます。

システム

下図は,WB-SEGの試験装置の概要です。燃焼室に木質バイオマス燃料(チップ)と燃焼用空気を供給しますが,これらは,排ガス熱交換器を使って予め熱することができます。ただし,エンジンの冷却温水については温度が低いので予熱に使わずに蓄熱槽へ供給します。排ガスは,上で述べた木質バイオマスと燃焼用空気の予熱のほかに,任意の割合を蓄熱槽に供給することができます。蓄熱槽に蓄えた熱は,時間をシフトして需要側に供給します。 エンジン発電機の電力は,インバータにより一定の周波数に変換され,規定の電圧および周波数の電力をグリッドに供給します。



WB-SEG/PEM-FC複合サイクルのブロック図を下図(a)に示します。複合サイクルでは,燃焼室で木質バイオマスを燃やし,燃焼ガスの熱を最初にスターリングエンジンに供給します。この排熱を,蒸発器と改質ユニットに供給します。改質ユニット,Shifter,CO酸化器の排熱は,バイオマス燃料と燃焼用空気,および改質用CH4と水の予熱に使用するか蓄熱槽に貯蔵します。これらに供給する排熱の分配割合は任意に設定できます。 下図(b)に,WB-SEG / PEM-FC複合サイクルの物質およびエネルギーの流れを示します。図中には各ユニットでの化学反応と,電力,熱,物質の入出力,効率も示しています。

  

下図は,WB-SEG / PEM-FC combined cycleのエネルギーフローおよびエクセルギーフローの解析結果です。Combustorのエクセルギー損失が大きく,燃料予熱を伴わない場合で3350W,燃料予熱を伴う場合では3560Wにもなります。また,Shifterの前後では改質ガスの大きな温度変化があることから,エクセルギー損失は大きくなります。この理由は,Reformer unitから出力する改質ガスをShift 反応温度まで大幅に冷却するためです。エクセルギー損失を改善するには,各ユニット間の反応温度の差をできるだけ小さくすることが必要です。

下図は,エネルギーとエクセルギーに基づく発電効率,熱出力効率,総合効率の解析結果です。(a)は燃料予熱が伴わない結果で,(b)は燃料予熱を伴う場合の結果です。燃料の予熱を伴うWB-SEG / PEM-FC combined cycleのエネルギー発電効率はPEM-FCよりは低いですが,WB-SEG単独システムに比べると大きく改善しています。さらに,WB-SEG / PEM-FC複合サイクルのエクセルギー総合効率は,PEM-FC単独システムを上回ります。

 

 

下図は,WB-SEG / PEM-FC combined cycleの排熱の分配比と,エネルギー効率およびエクセルギー効率の関係です。燃焼用燃料(木質バイオマス)および燃焼用空気よりも,改質燃料(CH4)および水を予熱するほうが,エネルギーおよびエクセルギー効率は大きく改善します。

 

ページトップへ