固体高分子膜形燃料電池の可逆反応を用いた負荷平準化技術

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住宅や集合住宅,小規模店舗などに固体高分子膜形燃料電池(PEM-FC)を分散配置して電力および熱を供給する際の課題として,設備コストが高価であることと,熱電比のミスマッチ及び部分負荷による効率低下があげられます。そこで多くの研究機関では,PEM-FCの設備コストを低減するために,電極やイオン交換膜などの材料開発について研究を進めている(例えば,US DOE Rep., 「Synthesis and Characterization of CO-and H2S-Tolerant Electrocatalysts for PEM Fuel Cell」, Semi-Annual Technical Report, (2005), Agricultural and Technical State Univ., NC, Dep. Energy, Washington, D. C.など)。

一方本研究室では,分散配置した燃料電池をエネルギーネットワークで結び,共通機器の集約化による設備コストの低減と,各機器を協調制御することで温室効果ガス排出量の削減を試みています(Shin'ya OBARA,「Arrangement Plan for Distributed Fuel Cells Installed in Urban Areas」, International Journal of Energy Research, John Wiley & Sons, Inc. (Accept, in press))。

下に,市街地に導入するGrid AとGrid Bの2系統で構成する燃料電池マイクログリッドモデルを示します。任意の建築物に設置したPEM-FCの電力を,Grid AもしくはGrid Bから建築物に供給することができます。燃料電池マイクログリッドの構成は,地域性を十分に考慮して構築することができると考えられています。燃料電池マイクログリッドが実現すると,①非常時・災害時のバックアップエネルギー供給施設,②既存の大型発電所のピークカット, ③温室効果ガス排出量及びエネルギーコストの低減,④導入する地域の事情を考慮したエネルギー設備が構築できるのでエネルギー損失が少ない,などの効果が期待されます。

しかしながら上で述べた①から④の効果については,現在,厳密な検証がなされているところです。また,分散配置された燃料電池を単純に電力グリッドで結んでも,従来方法(火力発電所などの大型発電設備から電力を供給する方法)と比べてそれらの効果は低いことが予想されます。そこで本研究では,予め与えた目的関数に基づいて,分散した燃料電池が協調運転するマイクログリッドの開発に着目しています。本研究では,PEM-FCの課題である設備コストを低減する技術開発であり,国内外で実施されている電極やイオン交換膜などの材料開発などとは異なるアプローチです。

本研究は,下に示すように,カソードに供給する酸素濃度によりPEM-FCの出力性能が大きく異なる現象に着目した設備低減方法で,国内外の研究機関では実施された例がありません。PEM-FCの出力性能の試験結果では,下に示すように,カソードに供給する酸素濃度の上昇にしたがって発電特性は改善します(例えば,Mikkola, M., 「Experimental Studies on Polymer Electrolyte Membrane Fuel Cell Stacks」, Master's thesis submitted in partial fulfillment of the requirements for the degree of Master of Science in Technology, Helsinki University of Technology, (2001), pp.58-79.)。そこで,燃料電池の低負荷時に水電解槽を運転して酸素を生成し貯蔵しておきます。この酸素を,燃料電池の高負荷時に供給できれば,常時空気を供給して負荷に追従するこれまでの運転方法と比べて,燃料電池設備の容量は大幅に低減できる可能性があります。

下図は,本研究で提案する燃料電池及び燃料電池マイクログリッドの運用モデルです。電力需要の少ない低負荷時には水電解槽で水素・酸素を生成して圧縮貯蔵しておき,高負荷時にはそれらを燃料電池に供給して発電するものです。これまでに,燃料電池設備容量の低減効果について数値解析で予測しています(①Shin'ya OBARA,「Load Leveling of Fuel Cell System by Oxygen Concentration Control of Cathode Gas」, Transactions of the ASME, Journal of Fuel Cell Science and Technology, (in press),②Shin'ya OBARA,「Study of a Fuel Cell Network with Water Electrolysis for Improving Partial Load Efficiency of a Residential Cogeneration System」, International Journal of Energy Research, Vol.30, Issue 8, (pp.567-583). John Wiley & Sons, Inc., ③小原伸哉, 工藤一彦,「負荷平準化による燃料電池設備容量の低減と熱エネルギの放熱損失を考慮した燃料電池ネットワークシステムの検討」,日本機械学会論文集B編,71(702),(pp.292-299).)。

下図は東京の戸建て住宅に,本研究で提案する「負荷平準化による燃料電池設備容量の低減化技術」を導入するときの解析結果です。従来の燃料電池容量は負荷の最大値に対応できるように決めていましたが,負荷平準化システムでは,図中に示すように,燃料電池の設備容量を大幅に削減することができます。

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