ケナフ個体モデルによるコンパクト集光システムの開発

はじめに

植物は,光合成速度を増加させるために受光量を増すように進化していると考えられます。このような植物の受光システムを参考にすることで,小形で指向性の低い集光装置が開発できると考えられます。そこで本研究では,複数の種類の分裂葉を持つケナフに着目し,数値解析プログラム(LAPS)を用いて受光特性を調査しました。代表日での受光量の最大化を目的として解析した結果から,光源(太陽)の移動範囲とケナフのシュート形態の関係を明らかにしました。屈光を伴わないシュート形態には適切な範囲があり,集光システムの性能を表す受光効率はシュート形態に強い影響を受けることを明らかにしました。本研究による植物のシュート形態を模擬する集光システムでは,広い光源の移動範囲を伴う,夏期での受光特性をさらに改善する必要があります。

研究の背景

これまでに,植物の葉の形態と光合成速度の関係を調査するために,モンテカルロ法と遺伝的アルゴリズムを用いた解析アルゴリズム(LAPS : Light-Receiving Analysis Algorithm of a Plant Shoot)を開発しました。植物は影面積を少なくするために,屈光性(phototropism)を持ち,シュート形態(葉の形,大きさ,配向,葉枝の長さ,葉の分布など)を進化させてきました。このうち,屈光と葉の形の変化(単葉の分裂化)については,バイオマスの増減を必要としません。葉の形は「単葉から分裂葉へ」,そして「分裂葉から複葉へ」と発展すると考えられています。今日に見られる浅裂葉,中裂葉,深列葉の植物種は,単葉から複葉に進化する途中段階であると考えられます。そこで本研究では,単葉と複数の種類の分裂葉を持つケナフのシュート形態に着目して,受光量を数値解析で調査しました。ケナフの成長は他の植物に比べて早く,年間に高さ4〜5mに達すると言われます。植物の成長速度は光合成によるバイオマスの製造速度と同じと考えられるので,ケナフは他の植物に比べて高い集光特性を持つことが予想されます。本研究の調査結果から,ケナフの受光特性を模擬するように受光面を配置する,コンパクト受光システムを検討します。このシステムの調査目的は,例えば太陽電池モジュールやふく射熱交換器などでの,高効率受光システムの開発に導入可能な情報を得ることです。

ケナフの分裂葉

図1に示すようにケナフは,低い位置では1枚の葉ですが,頂点に至るまでに3枚,5枚,7枚の分裂葉を持ちます(図2)。ケナフの葉は,個体の成長に伴って葉の分裂数は増します。ただし各分裂葉は単葉が分かれたものであるので,分裂部分の葉の配向はすべて同じです。ケナフの葉の分裂数と個体全体での受光量の間には,光学的に強い関係があると予想されます。



  

解析モデル

図3に,ケナフの個体モデルの関節を示す。各葉の配向は方位角,傾斜角,回転角で表します。遺伝的アルゴリズムにより各角度の最適解を探索すると,多数の準最適解が出現します。これを抑えるために,傾斜角,葉枝の長さ,葉の長さ,葉の分裂数,葉枝の発生位置などは,実際の解析では予め与えることとしました。図4は,8枚の葉を持つケナフのシュート形態の解析モデルです。


解析結果

シュート形態

図5は,ケナフの個体モデルの,SDLAでの最適形態の解析結果です。図5中の上の図は,頂点から下方を見た図です。また,下の図はGAによる最適解を用いて,ケナフのシュートを等角投影法で描いた図です。本解析では,葉枝位置の間隔を65 mm一定(図5(a))と35 mm一定(図5(b))の個体モデルを計算しました。各図には個体の最大外形の寸法も記しています。図5(a)の1月と7月を比べると,水平面上のサイズは1月で66mm×48mmで,7月では68mm×96mmであす。したがって,1月でのSDLAを伴うケナフ個体の最適形態は,7月と比べて水平面上でおよそ半分の面積です。一方,両者の高さを比べると,1月では530mm,7月では523mmです。各月の最適形態の容積を比べると,1月では1680cm3,7月では3410 cm3でした。図5(b)では,1月でのケナフ個体の容積に比べて7月では1.48倍です。このように,解析結果では1月よりも7月での最適形態のほうが,設置容積は大きくなります。この理由としては,7月の光源位置の範囲が1月に比べて広いことが考えられます。即ち,7月の個体の形態は,シュートを広げることで広範囲の日射を集光しようとします。夏季のケナフの個体モデルでは,日射量の大きい時間帯に集中的に集光するようにシュートを配置しています。したがってシュートの広がりは,光源位置のほかにサンプリング時刻での日射量の大きさにも影響を受けていることがわかります。

分裂葉の配置と受光量の関係

図6に受光密度の結果を示します。ここで「受光密度」とは,ある葉に到達した光子数を,その葉の面積で割った値で定義します。図6(a)と(b)で,7月の各葉での受光密度よりも1月のほうが大きいことがわかります。分裂葉の配置順序に関しては,図中に示した分裂数の順序7-7-5-5-3-3-1-1(SDLA)と5-5-5-5-5-5-1-1の受光密度が大きい結果となります。しかしながら,分裂数の最も多い順序7-7-7-7-7-7-1-1や最も少ない順序3-3-3-3-3-3-1-1の受光密度は,各葉で小さい場合が多く見られます。このことからケナフの分裂葉の配置方法は,ケナフの個体の集光量に大きく影響することがわかります。このようにケナフでは,受光効率の最大化に関して,最適なシュート形態が存在します。1月での受光密度のほうが7月よりも大きいことから,光源の移動範囲が広いと指向性の影響が顕著となり受光密度は低下します。夏期での指向性の低下を実現する改善が求められます。 ケナフは最も低い位置に単葉を持ちます。図5(a)と(b)から,これらの葉は特に1月での受光量の増加に寄与していることがわかります。

受光効率

図7は,SDLAとそれ以外の分裂葉の配置について解析した,受光効率の解析結果です。受光効率は1月で大きく7月で小さくなります。また,葉枝位置の間隔65 mm一定よりも35 mm一定のほうが大きく,その比は1.5倍から1.7倍程度です。分裂葉は,下方の葉に光を通すようにデザインされていると考えられます。今後の課題は,夏期での受光量を増加させるための,シュート形態の改善方法を開発することです。すなわち,屈光を伴わないシュート形態を模擬した集光システムは,光源の移動範囲が広い夏期での受光効率を改善する必要があります。

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