水素混合ガスエンジンとPEM-FC複合発電によりCO2排出量を低減するマイクログリッドの構築

はじめに

住宅などの電力需要パターンは,一般に短時間での変化が大きいという特徴があります。したがって,燃料電池コジェネレーションなどを住宅に導入すると,効率の低い部分負荷運転が多発することとなります。一方,水素添加ガスエンジン発電機は,低負荷時に都市ガス燃料の水素割合を増すことで,排気浄化と正味熱効率が改善することが確認されています。そこで本研究では,水素添加ガスエンジンと固体高分子膜形燃料電池を複合運転する,ハイブリッドコジェネレーションシステムを提案しました。本研究では,水素添加ガスエンジン単独運用,固体高分子膜形燃料電池単独運用,負荷の大きさで燃料電池とガスエンジンを切り替える運用,燃料電池をベースロード運転する運用の4タイプについて数値解析による調査を実施しました。この結果, PEM-FCをベースロード運転して負荷変動にはNEGを対応させす運転方法が,最も高い総合効率であることがわかりました。また,二酸化炭素排出量は, NEGの水素添加運転が最も良い結果になります。

研究概要

固体高分子膜形燃料電池(PEM-FC)を使ったコジェネレーション(CGS)は,次世代の分散電源の有力候補です。しかしながら寿命時間が短いこと,価格が高いこと,複雑な制御を要すること,部分負荷時の発電効率の低下などの課題があります。このうち,燃料電池(FC)の寿命と価格は,材料開発とリサイクル技術の進歩で大きく改善する可能性があります。部分負荷時の効率低下は,改質器とセルスタックに関する原因に分けられます。燃料電池システムの効率を改善する試みとしては,例えば負荷率(負荷/容量)を上げるためにセルスタックを複数に分割し,負荷に応じて台数制御する方法があります。しかしながらこの方法では,燃料電池システムを複雑にするとエネルギー単価が上昇することが予想されます。そこで本研究では,部分負荷時の発電効率改善に関して,都市ガスエンジン(NEG)を併用するPEM-FC・NEGハイブリッドシステムを検討しました。NEGコジェネレーションは,エンジン技術の歴史が長いので信頼性が高く,燃料電池と比べて安価です。しかしながらPEM-FCと比べると,特に最大発電効率と騒音の点で劣ります。一方,NEGの排気ガス浄化と部分負荷時の効率改善に関して,水素添加技術が研究されています。これらの研究結果から,低負荷時に燃料の水素割合を増すことで,排気浄化と正味熱効率の改善が確認されています。

本研究では,PEM-FCと水素添加NEGのハイブリッドコジェネレーション(HCGS)の出力特性を数値実験で調査しました。PEM-FCとNEGの複合運転としては,①低負荷領域ではNEGを運転し,高負荷領域ではPEM-FCを運転する方法がある。PEM-FCの最大発電効率はNEGよりも高い。そこで,②PEM-FCをベースロード運転し,NEGを変動負荷に追従して運転する方法を調査しました。

過去のPEM-FCとNEGの試験データから,本研究ではシステム動作マップを作成しました。システム動作マップは,PEM-FC,NEG,HCGSなどに供給する都市ガス発熱量と,システムの発電および熱出力の関係を表します。システムを比較するために,本研究では,①水素添加NEG単独運転システム(OM-A),②PEM-FC単独運転システム(OM-B),③低負荷領域はNEGで運転し,高負荷領域はPEM-FCで運転するシステム(OM-C),④PEM-FCをベースロード運転し,NEGを変動負荷に追従して運転するシステム(OM-D)について調査しました。これらのシステムを,東京都の10世帯で構成する集合住宅の負荷パターンに導入して,燃料消費量,二酸化炭素排出量,蓄熱量,発電効率及び総合効率を解析しました。この結果,燃料消費量,発電効率,総合効率はOM-Dが最も良いことがわかりました。一方,二酸化炭素排出量はOM-Aで最も少なくなります。負荷パターンは1日の各時刻で大きく変化しますので,部分負荷運転の出力特性が良いNEG水素添加方式を併用するHCGSは有利であることがわかりました。1月,5月,8月の代表日でのOM-Aの総合効率は66%,75%,61%で,OM-Bでは65%,68%,63%でした。一方,OM-Dの総合効率は,それぞれ88%,94%,73%となります。

システム構成と運用方法

エンジン仕様と出力特性

システムの運用マップ

解析結果

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