燃料電池自動車の効率改善

エネルギー効率の改善

燃料電池自動車による高効率運転を支える技術の1つに,大容量キャパシタを用いた回生エネルギの再利用システムが知られています。市街地の自動車の走行では,発進・停止や加速・減速を伴う運転が頻繁に生じており,停止時や減速時の回生エネルギを回収して再利用することは,移動体のエネルギ効率を向上する技術として重要です。燃料電池自動車の回生エネルギの回収及び再利用を実施する手段として,現在では,バッテリや大容量キャパシタを組み合わせたハイブリッド方式が多く検討されており,特に大容量キャパシタの開発は目覚しく,エネルギ密度,出力密度及び充放電効率が非常に高い製品も発表されています。一方,燃料電池自動車のエネルギ効率を向上するためには,上で述べた回生エネルギの再利用技術の他に,低負荷時の部分負荷運転での効率改善が大切です。そこで本研究では,燃料電池の運転動作点を,効率の低い部分負荷にならないような高効率領域にシフトして運転することを検討しています。

本研究では燃料電池及び改質器の容量を分割して,個々のユニットの最大出力を小さくして導入することを検討しています。特に燃料電池をユニットに分割(以下にCSGと述べます)し,以下に述べる方法で燃料電池自動車の部分負荷時の効率改善と,回生エネルギの再利用を行います。

  1. 改質器及び燃料電池を複数のユニットに分割して,各ユニットの最大出力を小さく設定することで効率の低い部分負荷の運転領域を減らす。
  2. 部分負荷の運転状態となるCSGについては,その運転動作点を強制的に高効率側にシフトすることとし,これにより生じる余剰電力を用いて,別のCSGによる水電解を実施して水素及び酸素を生成する。ここで生成した水素及び酸素を圧縮貯蔵して,任意のCSGに供給して発電する。
  3. 減速時や停止運転の際には,駆動用モーターで発電した電力でCSGによる水電解を行い,生成した水素及び酸素を圧縮して各ボンベに貯蔵する。

以上に述べたように本研究では,効率の低い部分負荷時の効率改善と回生エネルギの再利用による高効率化をCSGによる水電解で実施するもので,バッテリ容量の削減と,電力を持続して保有することに課題のあるキャパシタを要さない,高効率な自動車用燃料電池システムを検討しています。

提案システム

本稿で想定する,燃料電池自動車の動力システムの概要を下の2つの図に示します。燃料タンク(3,番号は図中のものに対応しています)にはメタノール水溶液を充填し,改質器(2)では,この燃料を水蒸気改質して水素リッチな改質ガスを生成します。改質反応後の改質ガス中には,一酸化炭素などの電池電極を被毒する物質が含まれますが,改質器中には,これらを無毒化するような処理過程(COの酸化反応器など)も含まれています。改質器については,同じ容量で分割(以下では改質器ユニットと呼びます)しますが,改質器ユニットで生成した改質ガスを,CSGを集合した燃料電池(1)に供給し,カソードにはブロワ(8)で空気を供給することで発電します。燃料電池で発電した電力は,DC-DCコンバータ(10)とインバータ(11)を介して,自動車の駆動用交流モータ(12)に供給されます。一部の電力はコールドスタート時の改質器の暖機運転と制御器や補機の電源として用いるバッテリ(9)に供給されます。

下図は,システムの電力及び物質の系統図で,図に示すように,すべてのCSGの改質ガス系統,空気系統,水素系統,酸素系統の各配管を結んでネットワークを構築します。図中のパワーコントローラは,すべてのCSGの運転を管理する制御器で,発電運転するCSGと水電解運転するCSGの割り当て,及びすべての制御バルブの開閉の指令を行います。パワーコントローラにより発電運転に指定されたCSGのアノードには,改質ガスもしくはボンベ中の水素が供給され,カソードに対しては空気もしくはボンベ中の酸素が供給されます。

燃料電池セルの出力特性モデルを下の図に示します。カソードに空気を供給する場合と酸素を供給する場合では,酸素分圧の関係から図に示すように出力特性が異なります。同様に,アノードに改質ガスを供給する場合と,水素を供給する場合によっても出力特性は異なりますが,実際の試験では,カソードに空気もしくは酸素を供給したときの差に比べると僅かです。

<部分負荷時の効率改善と回生エネルギの回収>

下図(a)は,本研究で与える簡単な負荷パターンモデルで,図中に示すようにP1とP2の2つの負荷ピークを設定しています。また,図(a)中の破線より下の部分では,CSGの運転は効率の低い部分負荷となる領域であるとします。図(b)は,図(a)の負荷パターンモデルについて,燃料電池自動車が走行する際の,水素消費量のモデルです。負荷パターンモデルでのピークP1に至るまでのR1の部分は,低負荷により効率の低い部分負荷運転の領域です。R1領域から抜けてP1に至る領域R2では,効率の低い部分負荷を脱して高い効率での運転が行われます。

図(c)は,この負荷モデルでの部分負荷運転に関する領域と,回生エネルギの回収を行うことができる領域を示した図で,図中のPL1とPL2の両領域は効率の低い部分負荷運転となる部分で,RE1とRE2の両領域は自動車の減速・停止動作により,回生エネルギを回収することができる部分です。

図(d)は,効率の低い部分負荷運転の際の,CSGでの水素消費量を模擬したモデルです。CSGの運転領域が部分負荷により低効率となる際には,その動作点を高効率となるようにシフトすることとし,PL1領域でのCSGの水素消費量は,図中のハッチング領域Aの面積の量だけ増加します。また,PL2領域での部分負荷運転に関する水素消費量の増加は,図中のハッチング領域Bの面積に相当します。CSGの運転動作点をシフトすることで,領域A及び領域Bの面積に相当する水素量が生成され,これをタンクに貯蔵します。

また,図(e)は回生エネルギの回収を水電解で行うときの,水素生成量に関するモデルです。図中の直線C及び直線Dは,図(c)中に示したRE1領域とRE2領域での回生エネルギの回収に伴う水素生成です。一方,図(f)は,改質器で生成する水素量のモデルですが,上で述べたように,水素の生成に関しては,効率の低い部分負荷での運転動作点のシフト(図(d))によるものと,回生エネルギの回収(図(e))によるものがあります。

図(f)中のR3領域は,効率の低い部分負荷運転の領域R1と高効率な運転領域R2での,CSGで消費する水素量に相当します。領域R1では,高効率運転となるように運転動作点のシフトを行うことから,上で述べたように,その時点では余剰な水素が生じます。この余剰水素を時間シフトしてCSGでの発電運転に導入することから,図(f)中の面積LA(図(d)中の面積Aに相当)だけ改質器の運転は短縮します。したがって改質器は,サンプリング時刻T1からT2’の間での運転となります。同様に,領域R4での改質器の運転時間も短縮し,効率の低い部分負荷運転領域PL2(図(c))についての,運転動作点のシフトで生成する余剰水素量をLB(図(d)中の面積Bに相当)で表すと,改質器の運転時間はT3からT4’となります。さらに,図(e)で示した直線Cでの回生エネルギの回収で得た余剰水素量をLCとすると,この領域での改質器の運転時間はさらに短縮して,T3からT4”までの運転となります。

以下の表に示すCase A~Case Dの改質器ユニット及びCSGの容量と台数を想定して,数値実験を行いました。

下図は,Case A~Case Dのそれぞれについての,LA4走行モードの1サイクルで消費する積算消費燃料量の解析結果です。燃料電池自動車の効率改善を,①改質器及び燃料電池を複数のユニットに分割して,各ユニットの最大出力を小さく設定することで部分負荷となる運転領域を減らす方法,②部分負荷の運転状態となる燃料電池ユニットについては,負荷を加えてその運転動作点を高効率側にシフトして,この際の余剰電力を用いて,別の燃料電池ユニットで水電解を行い水素及び酸素を生成する方法,③回生エネルギの回収を,燃料電池ユニットによる水電解で行い,生成した水素及び酸素を圧縮貯蔵して,時間シフトして発電に利用する方法,について調査しました。この結果,改質器ユニットの容量を小さく設定し,燃料電池ユニットの容量を大きく設定することで効果が大きいものと考えられます。

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