気象予報情報に基づく住宅用太陽光発電・電気蓄熱ヒーターの運用制御システム

はじめに

安全でクリーンな電気蓄熱ヒーターを用いたオール電化住宅の普及が進んでいます。しかしながら通常の電気蓄熱ヒーターは,気象条件が大きく変化すると,放熱量の過不足により不快な室温とエネルギーの損失を生じます。そこで本研究では,インターネットなどの通信回線により配信される気象予報情報を使って,オール電化住宅に導入した電気蓄熱ヒーター,蓄熱式電気温水器,および太陽光発電の運用を計画するといった,システムコントローラのアルゴリズムを開発しています。最適化した運用計画を実行すると,深夜電力の購入量を最小化することができます。また,気象予報情報を用いることで快適な暖房運転を実現し,さらに太陽光発電の導入により昼間の商用電力の購入コストを大きく低減します。売電せずに太陽光発電の容量を増やすと,余剰電力は電気蓄熱ヒーターに蓄熱されるので,放熱量が多すぎて不快な室温になると予想されましたが,本研究の条件範囲では,この場合でも極端に不快な室温状態にはならないことがわかりました。現在の気象予測精度であれば,気象情報を1日1回外部から得ることで,既存のオール電化住宅に比べてエネルギー損失が少なく快適な暖房システムを実現することができます。近い将来,マイクログリッドやスマートグリッドが導入されると,これまでのオール電化住宅の特徴であった「深夜電力の利用」について,大きく異なることになると予想されます。今後本研究室では,マイクログリッドとオール電化住宅の関係を調査していきます。

オール電化住宅

安全でクリーンなことから,オール電化住宅の普及が進んでいます。寒冷地のオール電化住宅では,電気蓄熱ヒーターを各部屋に設置する例が多くあります。電気蓄熱ヒーターの電源には深夜電力を用いるので,電力会社の発電設備の昼夜の負荷平準化に貢献することができます。安価な深夜電力を用いることから,石油暖房と比べてエネルギーコストが低減されるケースも多いです。また,電気蓄熱ヒーターは24時間運転で,住宅から排気ガスを放出することもありません。近年の寒冷地住宅は,気密性が高くしかも優れた断熱性能を持つ構造が多いため,このような寒冷地住宅に電気蓄熱ヒーターを設置すると,省エネルギーと快適な住空間を得ることができます。しかしながら,最も普及している電気蓄熱ヒーターは,その蓄熱量を前日に住人によって設定するか,簡単な温度センサを使ってマイコンで制御します。これらの場合には,気象条件が大きく変化すると,放熱量の過不足が生じて,不快な室温変化と大きなエネルギー損失を生じることになります。例えば,季節の変わり目に窓を開けて外気を部屋に入れることや,石油ポータブルストーブを併用することが頻発します。最近では住宅へのADSLや光ケーブルなどの通信回線の設置が拡大していますので,本研究では,通信回線により配信される気象予報情報に基づいて,電気蓄熱ヒーター,蓄熱式電気温水器などの機器と太陽光発電を伴う寒冷地住宅の運用を計画して,この計画に基づいたシステムの最適運用を実施することで,気象条件が変化しても放熱量の過不足が少なく,快適な室温環境を実現するオール電化住宅を検討しています。

図1は,提案システムの構成です。太陽光発電の電力は,パワーコンディショナで直流から交流に変換され,さらに規定内の周波数に調整されます。この電力は分電盤を介して,各種家電,クッキングヒーター,電気蓄熱ヒーター,蓄熱式電気温水器へ分配することができます。図1で示した電力および熱機器は,図中のコントローラの指令でSW1からSW3を調整して運用されます。また,コントローラには通信回線を使った気象予報情報が定期的に入力されます。これらの情報を使って,コントローラではシステムの最適運用を計画します。また,本研究では商用電力系統への影響を除くために,太陽光発電の余剰電力の売電を考慮していません。

図2は,システムコントローラで運用を計画するタイミングと,電力負荷および電力供給の関係を表すチャートです。図2は,Day nとDay n+1の2日間のシステム運用です。コントローラでは,通信回線を使って一定の時間間隔で気象情報(外気温度 と全天日射量 )を得ます。コントローラに導入されたアルゴリズムによって,コントローラでは図1で示したシステムの運用を計画します。コントローラでは気象情報に基づいて,時刻毎の太陽光発電の電力量,蓄熱式電気温水器および電気蓄熱ヒーターの負荷を予測します。上で述べた各値(時刻ごとの太陽光発電の発電量,蓄熱式電気温水器と電気蓄熱ヒーターの負荷)が正確に知れたなら,蓄熱式電気温水器および電気蓄熱ヒーターへの夜間電力の供給量は最小に計画することができます。

本稿の解析では,札幌の2007年3月の実際の気象データを用います。3月の外気温度と日射量は変化が激しいため,この月の気象予測は他の月と比べて難しくなります。図3は,2007年3月での日平均外気温度です。本解析では,月内で外気温度変化の特に大きい3月5日から9日の期間について,図1に示す提案システムの運用を解析します。一方,3月19日の日平均外気温度は,3月の月平均外気温度に最も近いので,この日の解析結果と3月5日から9日での結果と比較することは十分に意味があると考えられます。

図4は,2007年3月5日から9日の期間での,外気温度と全天日射量の実測データと気象予報データの例です。気象予報データには誤差を含みます。過去に,気象予報値と実際の気象データの間の誤差を調査した例があります。日本気象庁の外気温度の24時間後の気象予報精度は,年平均でおよそ±20%です。しかしながら,中間期は外気温度の変化が激しいので,気象予報誤差はさらに低下すると予想されます。そこで本研究では,外気温度の気象予報情報を受け取った時刻(深夜0時を想定)から24時間後の最大誤差を±60%に設定します。一方,全天日射量の予測値は,日没時で最大100%の誤差を含むように設定します。気象予報情報は,気象情報を受け取った時刻 から時間が経つほど誤差が大きくなると考えられます。そこで,乱数を用いた誤差つき気象予報情報を作成して導入します。

図5は,システムの運用解析の結果で,部屋モデルの室温目標と,運用の結果得られた室温との差です。ただし図5 (a)と(b)は,太陽光発電システムを設置しています。この太陽電池モジュールの面積は40m2,発電効率は19%です。図5 (a)と(c)は,3月の平均気温の気象データ(3月19日の外気温度および全天日射量)に基づいてシステムを運用したときの結果であす。この運用方法は,各月の平均気温を用いて,電気蓄熱ヒーターを毎日運転する場合を想定しています。一方,図5 (b)と(d)の結果は,当日の午前0時にその日の気象予報データを通信回線によって得て,この予報データに基づいてシステムを運用する場合です。太陽光発電を導入する場合(図5 (a)と(b))では,外気温度の予測誤差に加えて全天日射量の予測誤差も運用計画に含まれます。この結果,太陽光発電システムを設置しない場合(図5 (c)と(d))に比べて,室温目標に対する温度差が大きい場合があります。特に,図5 (a)と(c)の室温目標に対する温度差は明らかに違っており,太陽光発電を設置しないほうがこの温度差は小さくなります。さらに,図5 (a)と(b),図5 (c)と(d)を比較すると,電気蓄熱ヒーターの運用計画に気象予報データを用いることで,室温目標と室温との差が小さく,快適な暖房運転が可能となります。

図6は,システムに導入する太陽電池モジュールの面積と,各日の商用電力の購入量の関係を調査した結果です。ただしこの図の商用電力購入量は,昼間電力と夜間電力の合計です。日によって太陽光発電の効果は異なるが,太陽電池のモジュール面積60m2を超えると,急激に商用電力の購入量は減少します。提案システムでは余剰電力を商用系統へ売らずに,電気蓄熱ヒーターへの蓄熱に使われます。したがって,太陽光発電による過度な電力出力は,部屋モデルの室温を無駄に上昇させる可能性があります。そこで図7に示すように,太陽電池モジュールの面積と,室温目標に対する温度結果の差の関係を調査しました。3月5日の夕方から深夜の期間では,太陽電池モジュールの面積が大きくなるほど,室温目標に対する温度結果の差は大きくなります。しかしながら他の日の解析結果では,太陽電池モジュールの面積と室温目標に対する温度結果の差の範囲は,大きな違いが見られません。この理由は,3月5日の外気温度は他の日に比べて高いためで,気象予報情報の誤差は,外気温度の低い他の日に比べて相対的に大きくなるためです。図7に示したように,提案する運用計画アルゴリズムを導入することで,室温は目標値の±2℃から±4℃の範囲に制御されます。

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