木質バイオマスエンジンおよび燃料電池ハイブリッドシステムの動特性

はじめに

スターリングサイクルを用いたwoody biomass engineの燃焼排熱は高温です。そこでこの排熱を,固体高分子膜形燃料電池(PEM-FC)の都市ガス改質反応に利用するハイブリッドコジェネレーションを提案しています。woody biomass engine発電機は,発電に伴う温室効果ガス排出量を大きく削減できるという特徴を持ちます。本研究では,PEM-FC / woody biomass engine hybrid cogeneration(PWHC)をマイクログリッドに接続して市街地にエネルギー供給する場合の,電力の動特性について調査しました。マイクログリッドの負荷変動時の電力品質は,グリッドの動特性で決まります。特に他のグリッドと連系しない独立マイクログリッドの動特性は,電力品質の保証上重要です。そこで,PEM-FCとwoody biomass engineの電力負荷が変動する時の応答特性を実験などから調査しました。さらに,補機を含めたPWHC独立マイクログリッドの電力の動特性を数値シミュレーションで調査しました。これらの調査結果を導入して,PEM-FCとwoody biomass engineに比例積分制御を加えて,電力の動特性を改善する方法を提案しています。

システム

下の表は,それぞれ本研究で試験したSEG(スターリングエンジン)と発電機の仕様です。下右図は試験装置の全体図です。SEGには木材のチップ燃料を供給します。チップ燃料を燃焼室のホッパーに投入すると,燃料は燃焼室に入る前に予熱空気と混合されます。チップ燃料の供給速度は,ホッパーの下部に設置した燃料供給装置で制御できます。SEGの動力軸と,表で示した発電機はベルトで動力を伝達します。試験SEGは,単気筒であるので振動があります。そこで,エンジンの振動が燃焼室に伝わらないように,緩衝ダクトでエンジン本体と燃焼室を接続しています。本試験システムは,一関工業高等専門学校機械工学科の佐々木教授・星助教授により設計・開発されたものです。

下図は,それぞれSEG(スターリングエンジン)とPEM-FCが単独でマイクログリッドに電力を供給する場合の,フィードバック制御のブロック図です。各システムの制御には,比例積分制御(PI制御と記述する)を導入します。SEGおよびPEM-FCは,制御器の指令で出力を調整します。それぞれの制御器は,予め設定したPI制御のパラメータ(P及びI)に基づいて制御を実施します。SEGおよびPEM-FCで発電した電力は,インバータと系統連系器を介して需要側に供給します。

SEGの電力の動特性を調査すると,オーバーシューティングが大きくPEM-FCに比べて整定時間が長いことがわかりました。整定時間が長い理由としては,チップの燃焼ガスとSEGの熱交換器の間の伝熱特性が大きく影響すると考えられます。しかしながら,チップの燃焼ガスの伝熱速度を,電力の負荷変動に追従できるほど迅速にすることは難しいと思われます。したがって,SEGの運転にPI制御を加えて整定時間をできるだけ短縮し,オーバーシューティングを抑える工夫を検討しています。

木質バイオマスを燃料とする試験スターリングエンジン発電機(SEG)を使って,負荷応答特性を調査しました。この結果から伝達関数を決定し,SEGを導入したマイクログリッドの電力の動特性も調査しました。さらに,SEGの燃焼ガス排熱をPEM-FCの改質器熱源として使用するhybrid cogeneration(PWHC)を導入するマイクログリッドの電力の動特性について数値解析による調査を実施しています。これらの結果から,SEGおよびPEM-FCの制御器に導入する制御パラメータの最適値を探索しました。さらに,PWHCを用いたマイクログリッドの負荷応答特性を調査することで以下の結論を得ています。

  1. 住宅を接続するマイクログリッドにSEGを導入して,電力を供給するときの整定時間は最大で10sを超える。したがって,SEG単独のマイクログリッドは,電圧や周波数が長い期間不安定であることがある。
  2. PEM-FCによる電力供給は,SEGによる電力供給に比べて負荷変動時の整定時間が短い。したがってPEM-FCマイクログリッドの電力の動特性は,SEGに比べて良好である。
  3. そこで,SEGはベースロード運転に対応させ,PEM-FCについてはベースロードを上回る負荷に対応させるマイクログリッドを調査したところ,整定時間は1.6s以下で動的に安定したシステムが実現する。

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