燃料電池コジェネレーションの動特性

はじめに

固体高分子膜形燃料電池(PEM-FC)を住宅などに設置してコジェネレーション(CGS)として利用する場合の運用計画については,混合整数計画法や遺伝的アルゴリズムの考え方を導入する解析方法が知られています。一方,PEM-FC CGSを負荷変動の大きな住宅に設置して運用することを考えると,システムの電力および熱出力のそれぞれに関する過渡応答特性を考慮する必要があります。これまでに,PEM-FCのセルスタックで発生する熱を回収して,これをラジエータから出力する際の応答特性の調査がZhang Y.らによって行われています。この調査では,電力の負荷や,セルスタックで発生する熱を回収するための熱媒体流量の変化をステップ入力する際の,システムの熱出力に関する応答特性について検討しています。

我々はこれまでに,改質器,PEM-FC,インバータ,系統連係器などで構成する家庭用の1kW電力出力システムの電力に関する過渡応答特性の調査を行ってきました。この報告で,PEM-FC,改質器,インバータ,系統連係器の時定数と,システムから出力する電力が,需要量に追従するようにフィードバック制御を行う際の,PI制御のパラメータの設定値が,電力の出力特性に及ぼす影響を明らかとしています。また,これまでに実施されている,PEM-FC CGSの電力出力に関する過渡応答特性の試験調査の報告から推察すると,PEM-FCの応答速度は,一般家庭で使用する家電品に対応可能であることがわかっています。

一方,改質器を含むPEFC-CGSについて,電力出力と同時に熱の出力応答を考慮した報告は,これまでのところ見当たりませんでした。そこで本研究では,電力負荷が変動する際のPEM-FCおよび改質器での過渡応答特性と,これに伴って出力するPEM-FCおよび改質器での排熱の過渡応答特性,さらに,補助熱源として使用するヒートポンプの熱出力に関する過渡応答特性を考慮した,家庭用燃料電池システムの出力応答特性の調査を実施しました。システムを構成する各要素の伝達関数については,試験などで得た過渡応答特性の近似曲線から推察して一次遅れ系で表し,これらの伝達関数を用いてシステムを構成する際の,システム全体での応答特性を調査しています。解析事例として,本稿で取り上げたPEM-FC CGSを,札幌市の戸建住宅でのエネルギー需要パターンの下で運転する際の,システムの電力及び熱出力の過渡応答特性について調査しました。

システム制御

本研究で扱うPEM-FC CGSのモデルを下図に示します。システムは,都市ガス改質器,PEM-FC,ドライヤ,DC/AC変換器を含むインバータ,ヒートポンプシステム,ラジエータで構成されています。システムの電力出力については,負荷に追従するような運転制御を加えるものとし,燃料電池排熱及び改質器内に設置した改質器の熱源用バーナーの排熱については,電力負荷に依存して出力することとなります。システムの熱出力については,排熱が熱負荷に対して不足する場合に,不足分をヒートポンプの運転で賄うものとしています。

下図は,システムの制御ブロック図です。図中のSubroutine 1とSubroutine 2は,それぞれ売電を行う際の電力量に関するサブルーチンと,買電の量を計算するためのサブルーチンで,Subroutine 3とSubsystem(Heat-pump)は,燃料電池排熱が熱需要に比べて足りないときの動作に関するもので,それぞれヒートポンプの運転を行わない場合のサブルーチンと,運転する場合のサブシステムを表します。図中のController 1とController 2は,それぞれシステムの電力出力およびヒートポンプの熱出力を制御する制御器を表します。各コントローラには,予め比例積分制御(以下,PI制御と称す)の制御パラメータを与えておき,電力および熱負荷とシステムでの各出力の差をなくすようにフィードバック制御を行います。

下図左段は,実験で得た,燃料電池の発電量と伝達関数の時定数の関係を表します。これらの応答結果に対してステップ状の電力負荷をPEM-FC CGSに与えるときの,燃料電池セルスタック単体および燃料電池セルスタックと改質器での,熱出力に関する過渡応答特性の解析結果を下図右段に示します。

下図は,札幌市の平均的な戸建住宅の負荷パターンの下でPEM-FC CGSを導入する際の,システムでの熱出力の応答結果です。上で述べた燃料電池や改質器の負荷応答特性を用いて数値解析したものです。熱負荷パターンには給湯および浴槽用の熱負荷も含んでいます。燃料電池排熱の出力と改質器の熱源用バーナーの排熱出力については,時定数が大きくて時間が経過してもなかなか収束しません。このことから,電動ヒートポンプを補助熱源に利用することで,システムの熱負荷の応答特性を改善する必要があります。あるいは,蓄熱槽を導入することも有効です。

下図は,札幌市の平均的な戸建住宅の負荷パターンの下でPEM-FC CGSを導入する際の,システムでの電力出力に関する負荷応答結果です。電力負荷の追従運転については応答特性が良好です。

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